Z世代の従業員に対する人事・マネジメント戦略
はじめに
今回は、Z世代に対する人事・マネジメント戦略について解説したいと思います。Z世代には明確な定義はありませんが、一般に1990年代後半から2000年代に生まれた世代を指すことが多いと思います。現在の20歳代の従業員を指すと考えて良いと思います。
現在Z世代は新入社員から若手社員を占めていますが、企業の管理職や中堅社員層からは、「指導がうまくいかない」、「考えていることが分からない」、「少し厳しく指導したら辞めてしまった」等のZ世代のマネジメントの難しさに関する声、人事担当者からは「採用でのミスマッチが多発している」、「早期離職が多い」といった声が聞かれています。
Z世代の特徴はソーシャルメディアの活発な利用
どの世代も育った時代背景が異なりますが、Z世代の大きな特徴はX、LINE、Instagram等のソーシャルメディアの利用です。総務省による調査結果を見ると20歳代は他の世代に比べてソーシャルメディアの活用が多く利用時間が他の世代と比較して圧倒的に多いことが分かります。学生時代は常にソーシャルメディアで複数のコミュニティと接続し、就職後も業務時間外は(あるいは業務時間中も)常にソーシャルメディアでコミュニケーションを取っているのが現状と思われます。
ソーシャルメディアには様々な種類がありますが、総じて高頻度で情報がやり取りされるのが特徴です。そうしたやり取りの中では狭いコミュニティの中で、あるいは直接には知らない他者と自身を比較しがちなのが特徴です。
ソーシャルメディアが普及した2010年以降、学術研究においてソーシャルメディアとメンタルヘルスの関連についての研究が急速に増加していますが、両者の関係を説明する概念として他者との比較が注目を集めています。たとえば、最近でもドイツの10代前半の若者を対象にしてソーシャルメディアと感情や主観的ウェルビーイングの関係を検討した結果、両者の関係を上方社会比較(他者の方が自分より良い生活をしていると思う気持ち)が部分的に媒介していることが明らかになっています。
https://www.nature.com/articles/s44271-023-00013-0
Z世代を対象として人事施策やマネジメントを考える際には、Z世代は人生の初期からソーシャルメディアでの絶え間ない他者との比較に晒されているということを前提として押さえておく必要があります。この点を前提として、最近のZ世代に関する調査結果を読み解いてみたいと思います。
Z世代は本当に給料、やりたいことを重視しているのか?
最近公表された調査の一例として株式会社電通がキャリア支援NPO法人「エンカレッジ」登録の2024年または2025年卒業予定大学生・大学院生を対象にした調査結果を見てみます。https://www.dentsu.co.jp/news/release/2024/0415-010715.html
調査結果によれば、エントリーする企業選びで重視するポイントを複数回答可で回答してもらった場合の1位は「給料がいい」となっており、「最も当てはまるものを一つ選ぶ」形式の設問では1位が「自分の夢ややりたいことに近い業界」となっています。これを額面通り読み取って「業界他社よりも給与水準を上げよう、学生のやりたいことを面接で聞いてマッチングを図ろう」と考える人事担当者がいるかもしれません。また、「うちの会社は昇進すると給与水準が高いのになぜZ世代は昇進意欲が弱いんだろう」と考える管理職層がいるかもしれません。
ポイントは、Z世代はあくまで同世代、ソーシャルメディアを通じたコミュニティの中での他者比較で考える傾向が強いということです。したがって業界他社と待遇比較をしているとは限らず、自分の属するコミュニティの中で年収の高い企業を比較対象にしている可能性があります。
採用面接の場面においては学生のやりたいことを聞くのが一般的だと思いますが、学生が本心から言っているというよりは、コミュニティの中で受けが良いことを内面化しており自身の本当にやりたいこととは違っている可能性があります。
マネジメントの場面においても、Z世代の目標は同じ会社の上司や先輩ではなく、ソーシャルメディアで著名な同世代の有名人である可能性があります。その場合、同じ会社の中での上司や先輩は比較対象になっていないため、頑張れば「○○課長のようになれる」、「○○先輩を見習いなさい」といった言葉は全く刺さらない可能性があります。
Z世代の特徴を踏まえた人事施策・マネジメント
ここからは以上のようなZ世代の特徴を踏まえて、Z世代に対する人事施策、特に採用とマネジメント施策について考えてみたいと思います。
採用担当者であれば、自社が比較されているのが必ずしも業界他社ではないということを頭に入れておく必要があります。自社に応募する学生がどのようなコミュニティに属しているのかを考慮して採用面で自社がどの点で優位あるいは劣位なのかを考えていく必要があります。現在いわゆる上位校ではコンサルティング会社への就職が人気であることを考えると事業会社であっても上位校から採用したい場合は、コンサルティング会社の待遇やキャリアを参考に自社の特徴を考える必要があるかもしれません。
面接においても、応募者のZ世代の主張する内容が同世代のコミュニティの中で企業に受けが良いとされるものであったり、同世代の中での「受けの良さ」が相当意識されている可能性を考慮する必要があります。そのため、志望動機ややりたいことについて直接聞くよりも、応募者の過去の経歴、行動、経験を深堀りして自社とのマッチングを検討するといったことが考えられます。
Z世代を抱える現場での管理職からは「これまでのマネジメントが通じにくい」、「モチベーションのスイッチが分かりづらい」という声が聞かれます。たとえば、Z世代に仕事を与える時には「●年目の社員は代々この業務をやっているから」という与え方をするのではなく、業務上必要なルーティン業務に加えて同世代に少し胸を張れるような仕事を与えてみても良いかもしれません。たとえば、残業時間が多少多くなるとしても、少し背伸びしたプロジェクトの末席に加えてみるといったことが考えられます。
<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了
以 上