ストレスチェック制度における効果的な高ストレス者フォローアップと費用対効果について

ストレスチェック制度施行後2年目の終盤に差しかかり、「高ストレス者に対してどのようなフォローアップをすればよいか」「そもそも手間やコストをかけて高ストレス者フォローアップを実施する意味が有るのか」といった質問を頂くことがあります。

そこで、今回は高ストレス者フォローアップの費用対効果について考えてみたいと思います。

高ストレス者に対してフォローアップする目的の一つとしては、休職を開始するようなリスクの高い従業員にアプローチして休職の発生を予防したいというのがあると思います。ストレスチェックでの高ストレスが将来の休職をどの程度予測するかについては、ストレスチェック制度において高ストレス者と休職者の関連について調べた厚生労働省の委託研究が参考になります。

出所:堤ら「科学的根拠によるストレスチェック質問票と判定基準の設定」「厚生労働省厚生労働科学研究費補助金労働安全衛生総合研究事業ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究平成28年度総括・分担研究報告書」180~192頁

https://mental.m.u-tokyo.ac.jp/jstress/H28%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E7%8F%AD%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%EF%BC%88%E6%AD%A3%E8%AA%A4%E8%A1%A8%E8%BF%BD%E5%8A%A0%EF%BC%89.pdf

上記の研究では、一部上場の金融業と製造業を対象とした2つの研究が行われています。金融業(14,486人)を対象として行われた研究においては、ストレスチェックの実施後1年以内に高ストレス者からは1.39%、非高ストレス者からは0.36%の1か月以上の休職者が発生したという結果が出ています。つまり、高ストレス者は非高ストレス者に比べて3.86倍(=1.39%/0.36%)休職者が新規発生したということです。

次に、休職者が発生した場合のコストを検討してみたいと思います。休職者発生一人あたりのコストはさまざまな試算方法が提案されていますが、たとえば、下記のサイトで簡易的にシミュレーションを行うことが出来ます。

出所:保健同人株式会社 三井住友海上火災保険株式会社 MOSIMO

http://www.healthy-hotline.com/mosimo/cost/

上記サイトで、従業員の年収が500万円、休職期間を半年として試算すると休職者発生一人あたりのコストは約970万円と試算されます。

以上の結果を併せて用いて、ある企業(従業員数3000人、平均年収500万円、休職者比率0.5%、ストレスチェックでの高ストレス者比率が10%)で高ストレス者から発生する休職者のコストを試算してみると、高ストレス者から発生が予想される休職者数は、3,000人×10%×0.5%×3.86=5.79人となり、高ストレス者から発生する休職者のコストは、5.79人×970万円=5,616万円となります。

高ストレス者300人に適切にフォローアップしたとしても全員の休職予防は難しいと思いますが、仮に1人休職者を予防出来れば970万円、2人休職者を予防出来れば1,940万円(=970万円×2人)のコストを削減したと考えることが出来ます。通常の事業活動においてもこれだけコストを削減することは難しいのではないかと思います。

ここで、「10%も該当する高ストレス者全員を対象として全員面談というのは社内の産業保健スタッフのリソースから難しい」というご意見もあるかもしれません。その場合、たとえば、高ストレス者の中でも特にリスクが高いと思われる従業員をストレスチェックの点数を基準に選んで優先的にアプローチする方法が考えられます。

下記の鈴木ら(2004)の研究でレビューされているように、ストレス反応のうちでも「抑うつ」が最終的に表れるということが知られていますので、ストレスチェックの回答項目のうち「抑うつ感(※)」の点数の上位10%に、実施者または実施事務従事者となっている保健師や心理職から電話でアプローチし面談を勧奨するといった方法が考えられます。

※職業性ストレス簡易調査票または新職業性ストレス簡易調査票を用いた場合は設問13~設問18の合計点、あるいは素点換算表による「抑うつ感」尺度の5段階換算値を用いることが出来ます。

 

ストレス反応の深化過程 は, (a)疲労が初期の段階で表出される(島津・小杉, 1998a,1998b), (b)抑うつが最終経路であり,主要反応である(島津・小杉,1998a, 1998b;下光・岩田,2000), (c)“身体愁訴 ” などの主観的症状としての身体的反応は他のストレス反応と比較して別の影響要因で説明される可能性が高い(下光 ・岩田, 2000),等の結論が導き出されている.

出所:鈴木ら(2004) 「項目反応モデルによるストレス反応尺度の構成とテスト特性曲線によるその深化の過程」心理学研究Vol. 75 (2004-2005) No. 5 P 389-396

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy1926/75/5/75_5_389/_pdf

上記の例では高ストレス者300人のうち抑うつの点数の上位10%の30人に対して保健師・心理職との面談を電話等で呼びかけ、余裕があれば、上位20%、上位25%といった形で対象人数を増やして行くという方法が考えられます。

その他の方法としては、集団分析の指標である総合健康リスクが一定以上(例えば120以上)の部署の高ストレス者にアプローチするという、集団分析と組み合わせたアプローチもあると思います。「仕事のストレス判定図」の結果をもとに職場のストレス状況に仮説(たとえば「仕事の量的負担が重い」「同僚同士の対人関係が良くない」)を持ちながら高ストレス者にアプローチ出来るのがこの方法のメリットと言えるでしょう。

なお、上記にように特にリスクが高いと考えられる高ストレス者以外の対応が重要でないということではありません。優先的にアプローチしない高ストレス者(上記の例では270人)に対してもメール等などのなるべく工数のかからない方法でアプローチすることをお勧めします。面接指導は企業に申し出る必要があることや、面接指導の結果が企業で保存され、場合によっては上司と情報が共有されるということが、従業員の面接指導申し出へのハードルとなっている可能性がありますので、ストレスチェック制度内での面接指導に加えて社内の健康管理室等の相談窓口、あるいは外部相談窓口の利用案内を伝えるといった方法が考えられます。

最後に、上記の保健師・心理職との面談で就業上の措置が必要となった場合は、本人の同意を得て速やかにストレスチェック制度下の面接指導へつなぐことが必要になります。その際には人事部門や産業医等の医師との連携が必要になりますので、上記方法を実施する場合は事前に人事部門や産業医等の医師と手順、対応をすり合わせておくことをお勧めします。特に、面接指導実施時に必要になるヒアリング項目で医師でなくてもヒアリング可能な項目に関しては、フォローアップ面談時にヒアリングしておくと、産業医等の医師が面接指導の時間を有効活用することが出来ます。

以 上

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