メンタルヘルス関連企業の成長パターン分析~上場企業の業績を題材として~

はじめに

コロナ禍を経て、働く人のメンタルヘルスやウェルビーイングが注目を集めるようになりました。

そこで、今回は、働く人のメンタルヘルスやウェルビーイングに対するソリューションを提供するメンタルヘルス業界がこれまでどのように成長してきたのかを考える上で、メンタルヘルス業界に属する企業のこれまでの業績の推移を分析してみたいと思います。

メンタルヘルス業界では非上場企業が多く、多くの企業の業績は把握出来ません。メンタルヘルス業界の老舗かつ上場企業で決算情報が開示されている株式会社アドバンテッジリスクマネジメント(以下、ARM社)の業績(https://www.armg.jp/ir/yuho/)を参考にメンタルヘルス業界に属する企業の成長のパターンを考えてみます。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

ARM社のメンタリティマネジメント事業の業績推移

ARM社は2006年12月に現JASDAQ市場に上場しており2007年3月期から業績のトラックレコードを追うことが出来ます。ARM社はメンタルヘルス以外にも長期就業不能保険等を手掛けており、有価証券報告書ではセグメント別の業績を開示しています。ARM社のメンタリティマネジメント事業のセグメント別の売上、利益の推移はグラフのように推移しています。売上高でみると、2007年3月期の261百万円から直近の2022年3月期の4,317百万円まで16倍以上に成長していることが分かります。

今回はARM社のメンタリティマネジメント事業のセグメント別の売上、利益の推移を4期に分けて分析してみます。

上場初期からアベノミクス以前(2007年3月期~2013年3月期)

2007年3月期の時点では、メンタリティマネジメント事業の売上が261百万円に対して、就業障がい者事業の売上が762百万円となっており、ARM社の中ではメンタリティマネジメント事業は主力ではなかったことが分かります。その後買収した子会社の完全会化等により売上が増加していますが、リーマンショック、東日本大震災による影響もあり売上の伸びは小さく利益額も減少しています。

ストレスチェック義務化準備期(2014年3月期~2016年3月期)

東日本大震災の影響が薄れて再び売り上げが伸び始めたと思われる時期です。
義務化に先立ってストレスチェックを導入する企業を取り込んだ可能性があります。2015年12月施行のストレスチェック義務化に向けたシステム投資等が影響してメンタリティマネジメント事業のセグメント利益額がマイナスで推移しています。ストレスチェック義務化に備えた雌伏の時期だったと言えます。

ストレスチェック義務化後の急成長期(2017年3月期~2019年3月期)

ストレスチェック1年目の売上が全て計上される初めての会計期間が2017年3月期です。この期は売上高が前年の1,751百万から2,787百万への一気に増加しています。義務化に伴うストレスチェック顧客の新規獲得とそれに伴うEAPの獲得が貢献したものと思われます。この成長も貢献して、2017年3月には東京証券取引所に取引所が変更になっています。その後2019年3月期までは前年度対比で10%超の高い売上の成長が見られました。

ストレスチェック義務化の影響終了期(2020年3月期~2022年3月期)

ストレスチェック義務化の影響が一段落し、売上の伸びが停滞し始めている時期と言えます。メンタリティマネジメント事業自体は限界利益率の高いビジネスであることも影響して、セグメント利益は順調に出ており、キャッシュフロー創出源となっていると言えます。直近ではシステム投資や人材採用投資等により利益額が減少しているのが特徴です。

おわりに

今回は、ARM社の有価証券報告書をもとに、同社のメンタリティマネジメント事業の売上高、セグメント利益の推移を分析してみました。同社がメンタルヘルス業界全体を表す訳ではありませんが、2015年12月施行のストレスチェック義務化で大きく売上を伸ばしたという点が目立ちます。一方で、ストレスチェック義務化以降にも働き方改革、パワーハラスメント対策義務化、産業医の権限強化等の政府主導の労働者のメンタルヘルス支援につながる施策が実施されていますが、ストレスチェック義務化ほどには売上増にはつながっていないことが分かります。ARM社の業績がメンタルヘルス業界全体を代表する訳ではありませんが、業界全体のトレンドを考える上では参考になると考えられます。

以 上

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