組織サーベイに関する最近の動向

はじめに

近年、従来の従業員満足度調査やストレスチェックに加えてエンゲージメントサーベイ、パルスサーベイといった新しいタイプの組織サーベイを提供するベンダーが増えています。そこで今回は、組織サーベイをめぐる直近の動向についてベンダー各社のリリースを通して考察してみたいと思います。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

株式会社welldayがパルスサーベイ事業を株式会社HRBrain に事業譲渡

パルスサーベイを提供していた株式会社welldayがパルスサーベイ事業をタレントマネジメントシステム等を提供する株式会社HRBrainに事業譲渡したというニュースです。

https://www.hrbrain.jp/news/news/wellday-20231004

公表されている情報からはこの譲渡の背景は分かりませんが、下記で述べるように、一般にパルスサーベイ事業単体では収益化が難しいことを考慮すると、株式会社welldayがパルサーベ イ事業が収益化することが難しいと判断して事業譲渡した可能性はあると思います。

 パルスサーベイは、年に1回の従業員満足度調査やストレスチェックと比較して回答頻度が高いことが特徴です。そのために従業員からの不満が上がりやすく、その不満の声に抗しきれず契約終了となってしまう事例を多く仄聞します。また、パルスサーベイの価格体系が他の組織サーベイと同様に従業員1人あたりの単価×従業員数となっていますが、他のサーベイと比べて単価が高いことが一般的であること契約継続が難しいことにつながっているように思います。

 パルスサーベイで想定されるメリットとしてはメンタルヘルスやモチベーションが急速に悪化する従業員を、年に1回のストレスチェックやエンゲージメントサーベイと比較して捉えやすいということがあります。しかし、いくらメンタルヘルスやモチベーションが優れない従業員を特定出来たとしても単にシステムからメッセージを出すだけは効果が薄く、休職者や離職者の減少につながらない可能性が高いと言えます。

学術研究においても、職場でのメンタルヘルスの状態が悪い従業員を抽出するスクリーニングを実施してもフィードバックだけではメンタルヘルスの改善効果が低く、その後の介入につなげる必要があることが示されています。

Strudwick J, Gayed A, Deady M, Haffar S, Mobbs S, Malik A, Akhtar A, Braund T, Bryant RA, Harvey SB. Workplace mental health screening: a systematic review and meta-analysis. Occup Environ Med. 2023 Aug;80(8):469-484. doi: 10.1136/oemed-2022-108608. Epub 2023 Jun 15. PMID: 37321849; PMCID: PMC10423530.

https://oem.bmj.com/content/80/8/469

その意味で、パルスサーベイ単体で提供するよりは、組織開発や専門家による相談対応といったソリューションを保有するベンダーが、組織課題の発見、定点観測ツールとしてパルスサーベイを提供し、必要に応じて専門家による組織開発や相談対応を提供する方が理に適っていると言えます。パルスサーベイを以外のソリューションで高付加価値のサービスを提供出来るのであれば、パルスサーベイ自体は無料あるいは廉価で提供することも考えられます。今後もEAP 会社や組織コンサルティング会社、人事システム提供会社がパルスサーベイを譲り受けるケースが出て来るかもしれません。

株式会社iCAREがエンゲージメントサーベイを提供開始

健康管理システムを提供する株式会社iCAREがエンゲージメントサーベイを「Carelyエンゲージメントβ版」として提供開始したニュースです。

https://www.icare-carely.co.jp/news/20231023

同社はこれまで身体面・精神面での健康にアプローチするシステムを提供してきましたが、今回仕事のやりがいといったポジティブ面を扱うサーベイを提供開始したことになります。直近数年間では、上場企業に対してエンゲージメントも含む人的資本開示を求める動きがあるために、顧客ニーズも踏まえて開発を決定したものと推測されています。

同社のリリースでも「これまで蓄積してきた豊富な健康データ・支援実績により、エンゲージメントには従業員の健康面がネガティブにもポジティブにも影響していることがわかっています」と指摘されていますが、弊社の経験でも、エンゲージメントが低い従業員はメンタルヘルスの状態も良くないことが多いために、健康管理関連のソリューションを有する同社がエンゲージメントサーベイを提供することは理にかなっていると考えられます。

半面、エンゲージメント向上には、産業医や保健師等による個人別の対応が中心の健康管理と異なり、組織開発等の組織に対するアプローチが必要となることが多いです。同社がそういった組織アプローチを提供できるかが、今後エンゲージメントサーベイ事業を収益化するポイントになると考えられます。

以 上

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