自社でのカスタマーハラスメントの実態を把握するには?

はじめに

 今年になって カスタマー ハラスメントに関するニュースが多く取り上げられるようになりました。 その背景には、労働力不足により対人業務に従事する従業員や職員を新規で採用することが難しくなりつつあり、従業員や職員がカスタマーハラスメントによって退職してしまうことを避ける必要性が高まってきたことがあるように思います。

同時に、「お客様は神様です」、「顧客を悪者にするなどとんでもない」、「クレームは自社の責任である」という企業や組織側のこれまでの発想が、一定基準を超えたクレーム、要求についてはカスタマーハラスメントとして毅然として対応し、従業員や職員を守るという姿勢に変化しつつあるのかもしれません。 

このような状況下では、カスタマーハラスメント対策を実施する圧力が強くなっていると考えられます。弊社では、カスタマーハラスメント対策を実施する前に、組織でカスタマーハラスメントの実態を把握することをお勧めしています。今回は自組織におけるカスタマーハラスメントの実態をどのように調査するのかについて解説します。

調査の実施

調査項目の作成

カスタマーハラスメントに関する調査は極力項目数を少なくし、出来ればエンゲージメントサーベイ、従業員(職員)意識調査といった他の調査に項目を含める形で実施することをお勧めします。

項目作成のポイントとしては2つあります。カスタマーハラスメントに関する項目とそして 属性の分析となる項目です

カスタマ―ハラスメントの項目は、カスタマーハラスメントに該当すると考えられる行為を経験した頻度を問う形で作成します。その際には、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」の7~8ページを参考にします。

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

同マニュアルにはカスタマーハラスメントの定義として下記のように記載されています。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

ポイントは、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性と、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当かどうかという2つの基準が含まれている点です。同マニュアルによれば、顧客からの要求が著しく妥当性を欠く場合には、そのための手段がどのようなものであっても社会通念上不相当なものとされる可能性が高く、逆に、当該クレーム・言動の要求の内容が妥当であっても当該要求を実現するための手段・態様が悪質なものであれば、社会通念上認められない可能性が高いとされています。つまり、顧客からの要求が著しく妥当性を欠く場合、当該要求を実現するための手段・態様が悪質なものである場合のいずれかに該当する場合には、カスタマーハラスメントになり得るということです。

このうち、当該クレーム・言動の要求の内容が妥当かどうかは主観の入る余地が大きいため、調査で捉えづらい面があります。そこで、顧客等からのクレーム・言動が、要求を実現するための手段・態様が悪質と考えられる場合に絞って調査を実施することをお勧めします。つまり、要求内容が妥当かどうかに関わらず、不相当とされる可能性が高い行為を中心に調査項目を構成することをお勧めします。

出所:厚生労働省 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル 8ページ

調査票としては下記のようなものが考えられます。

あなたは、ここ1年間で、顧客(実際に商品・サービスを利用した者だけでなく、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含みます)から下記のような行為を受けたことがどの程度ありますか?当社に就職して1年未満の従業員の方は当社に就職して以降の期間についてお答えください。

  1. 暴行・傷害(胸を掴まれる、叩かれる、物を投げつけられる等)を受けた
  2. 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言)
  3. 土下座を要求された
  4. 性的な言動(性的な表現をする、体を触られる)をされた
  5. 差別的な言動をされた
  6. 顧客に30分以上拘束された

上記の各項目につき、選択肢は、たとえば「まったくない/1回/2回/3回以上/経験したことは覚えているが回数は覚えていない」にように設定します。

 分析項目の設定

調査項目には、集計・分析によってカスタマーハラスメントの発生状況の実態がより明らかになる分析できるような切り口でとなる項目を設定することをお勧めします。一般的には、支店、店舗などが考えられますが、百貨店、スーパーマーケット、ホテルのようにほぼ全従業員が対人業務に従事する業種の場合は、売り場や担当商品に関する項目を含める等、調査結果からカスタマーハラスメントの発生度が高い職場をなるべく細かく特定できるようにします。

個別ヒアリングの実施

調査の実施後には結果を集計・分析し、発生件数が多い部署、売り場等を把握し、実態をさらに詳しく把握するために、ヒアリングを実施することをお勧めします。ヒアリングの際には、カスタマーハラスメントの内容、発生した状況についてヒアリングします。なお、ヒアリングの際に、過去のカスタマーハラスメントの経験を思い出すことにより具合が悪くなるといったこともありますので、臨床心理士のような専門の心理職にヒアリングしてもらうことも一案です。

対策の実施

上記の調査結果と個別ヒアリングの結果をまとめ、今後のカスタマーハラスメント対策に活かします。長時間顧客を待たせてしまった、顧客に説明不足があったというカスタマーハラスメントにつながったと思われる要因がある場合は、業務フローを改善します。その改善はカスタマーハラスメントが発生した一部の部門だけではなく、対人業務が生じる全社に展開します。

酔っ払った宿泊客が従業員にセクシュアルハラスメントをしたというような、組織側に落ち度がない事例が中心の場合は、カスタマーハラスメントが起こった場合の対応方針(複数名で対応する、警察を呼ぶ、民事訴訟をする)明確になっているか、従業員や職員に徹底されているか自己点検します。

最後に

カスタマーハラスメントが発生しやすい小売業、宿泊業等では非正規雇用の従業員、職員が多いという特徴があります。業務用のPCを保有していない場合がある場合は、紙の調査票を作成して調査を依頼する等、調査への回答を勤務時間中とする等非正規雇用の従業員、職員への配慮が特に重要です。

以 上

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