2018年度公認心理師試験予想問題「精神障害の労災認定基準」

前回のブログに続いて産業領域での予想問題です。

精神障害の労災認定基準は産業領域で相談業務を行っている場合には必須の知識ですので公認心理師試験でも出題の可能性は高いと考えられます。以下の問題にチャレンジしてみましょう。

厚生労働省労働基準局長通知(「心理的負荷による精神障害の認定基準について」平成23年12月26日付け基発1226第号。以下「認定基準」という。)に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。なお、本問において「対象疾病」とは、「認定基準で対象とする疾病」のことである。

A 認定基準においては、次のいずれの要件も満たす場合に、業務上の疾病として取り扱うこととしている。
①対象疾病を発病していること。
②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。

B 認定基準における対象疾病の発病に至る原因の考え方は、環境由来の心理的負荷(ストレス)と、個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり、心理的負荷が非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、心理的負荷が小さくても破綻が生ずるとする「ストレス ― 脆弱性理論」に依拠している。

C 認定基準においては、「業務による強い心理的負荷」について、精神障害を発病した労働者がその出来事及び出来事後の状況が持続する程度を主観的にどう受け止めたかではなく、職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されるとしている。

D 認定基準においては、労災保険法第12条の2の2が「労働者が故意に死亡したときは、政府は保険給付を行わない」と規定していることから、業務により精神障害を発病したと認められる者が自殺を図った場合には、業務起因性は認められないとしている。

如何でしたでしょうか?

実はこの問題は社会保険労務士の第44回(平成24年)試験問題を改題したものです。
社会保険労務士の過去問がそのまま出題されることはないと思いますが、精神障害の労災認定基準についての理解を確認する良問ですので、公認心理師試験の予想問題とさせて頂きました。

解説前に、そもそも労災自体が産業分野以外の方には馴染みがないかもしれませんので以下に簡単に解説します。

労働者が業務が原因で負傷等した場合には、事業主に対して損害賠償を求めることも考えられますが、事業主が必ずしも補償を行う十分な資力があるとは限りません。また、労働者が長期の休業を余儀なくされた場合に事業主が補償を行っている途中に倒産したり廃業したりする可能性もあります。そもそも労働者が事業主に損害賠償を求めるには裁判を起こす必要があるため相当ハードルが高くなりますし、裁判手続きには時間がかかります。

そこで、労働者が業務が原因で負傷等した場合になるべく迅速に補償を受けることが出来るように、政府は生命保険や損害保険と同じ「労災保険」という仕組みを用意しています。具体的には全国の事業主から労災保険料を徴収しておき、業務が原因で負傷等した労働者が申請した場合には、国として業務が原因で発生した災害(=労災)か否かを判断します。労災と認定された場合には事業主に代わって労災保険料から労働者に補償金を支払う仕組みです。なお、労災の申請は労働基準監督署長に行います。労災保険制度のもう少し詳しい内容としては下記の資料が分かりやすいと思います。

http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-12-02.pdf

労災保険制度を定める労働者災害補償保険法が成立した戦後間もない頃の日本の産業は製造業中心でした。そのため、労災としては、工場で機械に手を挟まれて怪我を負ったとか、足場から転落したといった身体的なものが想定されていたと考えられます。ところが、現在ではサービス業が中心となっており、過重労働やハラスメントが原因のうつ病といった精神障害による労災の申請が多くなってきました。最近の精神障害に関する申請傾向を見ても申請件数が増加傾向にあることが分かります。

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11402000-Roudoukijunkyokuroudouhoshoubu-Hoshouka/28_seishin.pdf

精神障害による労災の特徴として、工場での怪我等と異なり業務が原因で発症したかどうかの判断が難しいというのがあります。そのため、申請件数は増えているのに労災認定されるか否かの判断まで時間がかかっていました。そこで、平成11年(1999年)に過去の裁判例等を整理して「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」が定められ労災判断の迅速化が図られた訳です。その後、精神障害の労災の申請件数が依然として増加傾向にあることから、より迅速な判断ができるように、平成23年(2011年)12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」が定められた訳です。

「心理的負荷による精神障害の認定基準」については厚生労働省の下記の解説書が分かりやすいです。以降はこちらを参考に解答を示します。http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf

まず2ページを読むと、選択肢Aと選択肢Cが正しい選択肢であることが分かります。

特に選択肢Aで示される基準は非常に重要ですので再掲します。「おおむね6か月」という数字は正確に記憶しておいた方が良いでしょう。

精神障害の労災として認定されるためには以下の3つの条件を全て満たす必要があります。
① 認定基準の対象となる精神障害を発病
② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

①は精神障害であれば何でもかんでも認定される訳ではないということです。

③は業務以外の原因や個体側要因でも精神障害が発症することから、労災認定されるためにはそれらを排除する必要があるということです。

また11ページを読むと選択肢Dが誤りであることが分かります。自殺は労災にはならないのが原則ですが、例外的に労災認定される場合があるという理解が重要です。

業務による心理的負荷によって精神障害を発病した人が自殺を図った場合は、精神障害によって、正常な認識や行為選択能力、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったもの(故意の欠如)と推定され、原則としてその死亡は労災認定されます。

選択肢Bは正しい内容です。ストレス ― 脆弱性理論の内容と、精神障害の労災認定のベースになっている考え方である点を理解しましょう。

※公認心理師試験受験生の方を対象としたアンケートを開始しました。ご回答頂いた結果は個人を特定しない形で集計分析し弊社ブログ等でレポートとして公表させて頂く予定です。設問数はラッキーナンバーの7問です。ぜひご協力ください!

以 上

 

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