今こそ働きやすさに加えて働きがいの向上を!

はじめに

2024年4月3日付の日本経済新聞にビジネスパーソンの口コミサイトの投稿を分析をして企業を働きやすさ、働きがいの2軸で分類して業績との関連を検討した結果が掲載されていました。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF110IV0R10C24A3000000/

転職した人が多く書き込んでいる口コミサイトへの投稿をもとにした働きやすさと働きがいが実態を反映しているかどうかは検討が必要ですが、働きやすさと働きがいの2軸で企業を捉えるという点は非常に重要です。

 大企業中心に「ホワイト化」が進んだ日本

2010年代以降日本においては 「働き方改革」によって労務管理の厳格化、残業時間の削減等で従業員の働きやすさは大幅に改善してきたと言えます。たとえば、経済産業省が主体となって運営している健康経営銘柄、健康経営優良法人は申請数や認定取得数が増加しており、大企業では取得するのが当たり前となりつつあります。認定を取得するための要件には労働基準法または労働安全衛生法に係る違反がないことを前提として従業員の健康に配慮した様々な取り組みが求められています。したがって、今後も大企業を中心として従業員の働きやすさを向上させるトレンドは続くものと思われます。

 従業員の働きがいには課題大

一方で、従業員の働きがいについてはどうでしょうか?働きやすさが向上したはずの大企業においても新卒入社社員の早期離職が問題になっています。厚生労働省による調査結果によれば、令和2年3月に大学を卒業して1000人以上規模の企業に就職した人の3年目までの離職率は26.1%となっています。いわゆる大企業に就職した人のうち5人に一人以上は3年以内に退職していることになります。

リクルートワークス研究所の調査結果(https://www.works-i.com/project/youth/solution/detail001.html)によれば、現在の職場をゆるいと感じている大手企業の若手社員ほど離職意向が強いことが明らかにされています。働きがいの不足が若手社員の離職につながっている可能性を示唆する結果と言えます。

若手社員に限らず日本企業での従業員の働きがいが不足していることは他の調査でも報告されています。たとえば、Gallup社の調査では日本では従業員のエンゲージメントが低いことが毎年のように報告されています。

働きがいを向上させるには?

働きやすさを向上させつつ、働きがいを高めるための考え方としては健康障害- 動機付けモデルという考え方が参考になります。このモデルでは、バーンアウトやメンタルヘルス不調につながるストレス反応と、仕事のパフォーマンスにつながるワーク・エンゲイジメントを別々の経路で考えていることがポイントです。

ストレス反応は、仕事の量的な負担や情緒的な負担が含まれる仕事の要求度の影響を主に受けます。仕事の量的な負担が重く感情的な負担が重いといった状況では従業員のメンタルヘルスが悪化しがちです。一方で、従業員がいきいき働く状態を表すワーク・エンゲイジメントは個人の資源と、仕事の資源からなる「資源」の影響が相対的に強く、それらが良好なほどワーク・エンゲイジメントが高いことが明らかになっています。

個人の資源とは自己効力感や楽観性といった個人が持っている心理的な資源です。これに対して仕事の資源とは、仕事や職場の特性としての資源です。たとえば、仕事の裁量(自分でやり方やペースを決められる)、成長の機会を感じられることや職場の上司や同僚からのサポートが該当します。つまり、個人の自己効力感や楽観性が高い場合や、仕事の裁量度や成長の機会が感じられ、上司や同僚との関係性が良好で支援が受けられる状態であればワーク・エンゲイジメントが高くなると言えます。

以上の結果を踏まえると若手社員には仕事の量的な負担が過度にならないように配慮しつつも、上司や先輩従業員が十分サポートした上で少し難し目の業務にチャレンジさせてみるといったことが重要と言えます。

上司や先輩による支援の重要性は若手社員に限った話ではありません。弊社が以前実施した調査でも、30-40歳代の一般従業員において、上司からの成長と学習の支援を感じられている人ほど仕事のパフォーマンスが高いことが分かっています。したがって、中堅社員に対しても、「一人前」として放置せずに、上司が中心となって業務やキャリアの相談に乗っていくとともに成長と学びにつながるより高いチャレンジを求めていくことが重要と考えられます。

部署レベルでの取り組みだけでは限界がありますので、企業全体の人事施策としても中堅社員に新規事業や子会社でマネジメントを経験させるといった取り組みが求められるところです。なお、難易度の高い業務を担当しているのに給与は他の社員と横並びといった業務内容の報酬のミスマッチはモチベーションの低下につながりますので、成長やチャレンジしている社員は年功序列にとらわれずに処遇していく報酬体系が望まれることは言うまでもありません。

終わり

昨今人的資本経営という考えが注目を集めていますが、簡単に言えば従業員に投資して企業の業績を向上させるということになります。企業の業績を向上させるには従業員のパフォーマンスを向上させる必要があり、そのためには従業員がやりがいを持って働けることが重要です。健康に配慮した働き方が浸透しつつある今、従業員のやりがい向上を目標とした業務体制、人事制度、経営体制のトランスフォーメーションも求められているのではないでしょうか?

以 上

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