ストレスチェック制度に関する最新動向

はじめに

今回は、最新のストレスチェック制度に関する動向として、3月29日に開始した厚生労働省のストレスチェック制度に関する検討会について紹介します。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39276.html

検討会の概要

本検討会は、正式名称を「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」と言います。ストレスチェック制度が創設された労働安全衛生法の附則において「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、改正後の労働安全衛生法の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と規定されていることを根拠とし、ストレスチェック制度を含めたメンタルヘルス対策について、実施状況等を踏まえながら検証することを目的としています。

検討会の出席者は、職場のメンタルヘルスに関する研究者、精神科医、公認心理師、医師、看護師といった専門職団体の代表者、商工会議所、労働組合、中小企業団体の代表者等で構成されており、構成員の一部はストレスチェック創設時の検討会の構成員と重複しています。検討会では冒頭で座長が選任され川上憲人東大大学院教授が就任しました。

今回は初回と言うこともあり事務局より検討会の趣旨説明、ストレスチェック制度を巡る現状の報告があった後、北里大学の堤明純教授よりストレスチェック制度の効果検証に関する報告がありました。その後、出席者から今後の進め方を含めてフリーディスカッションとなりました。

フリーディスカッションでの主な意見としては、現状では50名未満の事業場に対しては努力義務に留まっているのを義務化するべきではないか、現状は努力義務である集団分析と職場環境改善を義務化すべきではないかというものがありました。その他、ストレスチェック制度の趣旨がメンタルヘルス不調の未然防止という一次予防であるのに対して、現状は不調者の早期発見という二次予防の制度であるという認識のされ方が強いという懸念も出されました。

50名未満の事業場への実施義務化

フリーディスカッションにて意見が出された50名未満の事業場での義務化に対しては実現可能性は半々と言えます。理由は中小企業側からの反対が大きく労働安全衛生法という法律の改正が必要となるためです。実際初回の検討会においても、中小企業ではコストの面でも人員面でも対応が厳しいという意見が出ており、地域産業保健センターのサポート強化が必要と言う意見も出ていました。そもそもストレスチェック制度創設にも事業場の規模関係なく義務化という制度設計で国会に送られたものの、中小企業への影響を鑑みて国会審議にて50名未満は努力義務とされた経緯があります。本検討会にてストレスチェック制度の実施による労働者のメンタルヘルスに対する効果が説得力を持って示されない限りは国会での法改正は難しいと見ています。

集団分析、職場環境改善の義務化

集団分析、職場環境改善については出席者の中からも義務化を支持する声が多数であり、労働安全衛生法ではなく厚生労働省令である安全衛生規則で規定されているため、労働安全衛生法の改正よりはハードルが低いです。そのため、本検討会で反対の声が大きくなければ、検討会での報告書まとめ、労働政策審議会安全衛生分科会での審議を経て、厚生労働省令である労働安全衛生規則の改正がされる可能性が高いと思われます。ただし、特に職場環境改善に関しては、ノウハウ不足、実施の担い手の育成の必要性を指摘する声もあり、職場環境改善のみ努力義務とされる可能性や職場環境改善の実施を実効的なものとするための何らかの政策が実施される可能性があります。

企業、EAP、ストレスチェックベンダーへの影響

50名未満の事業場への義務化の影響

以上のような動きが企業、EAP、ストレスチェックベンダーに及ぼす影響を考えてみたいと思います。まず、50名未満の事業場への実施義務化が仮に実現すると、労働安全衛生法は企業のみならず学校、医療機関等も対象としているため、中小企業のみならず学校や、医療機関といったこれまでストレスチェックを実施していなかった事業場での実施が必要となり、コスト面と人員負担面で負担増加となります。検討会においてもその点は懸念されており地域産業保健センター等によるサポートや実施費用の補助等が実施される可能性があります。

一方で、EAP、ストレスチェックベンダーに関しては大きな影響はないと考えられます。現状ストレスチェックが実施されている一定以上の規模の企業では50名未満の事業場も含めて実施することが通例であり、50名未満の事業場が義務化されても実施人数が増加するということは考えにくいためです。50名未満の事業場のみを有する企業、学校、医療機関等が新たに義務の対象となりますが、その規模であればいわゆるEAPやストレスチェックベンダーよりも、健診機関等のストレスチェックサービスを利用することが多く、EAPやストレスチェックベンダーの顧客増加への貢献は小さいと考えられます。仮にEAPやストレスチェックベンダーが実施を請け負うことになったとしても、中小企業では多額のサービス購入が難しく、ストレスチェックの価格体系が単価×対象者数で計算されることが多いことからも業績への影響は少ないと言えるでしょう。

集団分析、職場環境改善の義務化の影響

集団分析、職場環境改善の実施については、企業に対する影響が大きいと思われます。現状においても集団分析は実施しても職場環境改善は実施していない企業が多いため、仮に義務化された場合は、どのように進めるのかという検討や実施にあたっても試行錯誤が必要となると考えられます。また、職場環境改善のノウハウを得るために初年度は外部のEAPやストレスチェックベンダーに委託することも考えられますが、その場合はコストが増加することとなります。集団分析のみ義務化されて職場環境改善が努力義務とされた場合にも集団分析をこれまで実施していなかった企業においては新たなコスト負担が発生します。

EAP、ストレスチェックベンダーについても影響が大きいと考えられます。集団分析の義務化により、組織単位での集計、仕事のストレス判定図の作成が必要となりこれまで集団分析を実施していなかった企業では新たなサービスの需要が生まれることになります。

職場環境改善の実施が義務化された場合、EAP、ストレスチェックベンダーによって明暗が分かれる可能性があります。というのは職場環境改善を実施するノウハウ、職場環境改善の効果検証を実施するノウハウを有するEAP、ストレスチェックベンダーはいまだ少数であると考えられるためです。特にストレスチェックシステムの提供のみをサービスとしているベンダーは集団分析の実施まではサービスとして提供していても職場環境改善はサービスとして提供していないことが一般的です。仮に職場環境改善までが義務化された場合、顧客からのニーズに応えられるよう、職場環境改善の実施のためのサービス開発、ノウハウの蓄積が求められることになります。

終わりに

今回はストレスチェック制度に関する最新動向として、「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」の初回検討会の状況について共有しました。50名未満の事業場への実施義務化、集団分析、職場環境改善の実施の義務化についてはこれから議論が本格化しますが、繰り返しになりますが、ストレスチェック制度に関しては本検討会による検討結果が労働政策審議会安全衛生分科会に送られ、法律や厚生労働省令の改正が検討されることになります。

特に50名未満の事業場の実施については中小企業、学校や医療機関のような中小事業場を有する組織、集団分析、職場環境改善の実施については中堅~大企業そしてベンダーであるEAP、ストレスチェックベンダーへの影響が大きいため、今後の議論を注意深く見守っていく必要があると言えます。

以 上

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