東京商工会議所による中小企業の健康経営に関する調査結果が公表

東京商工会議所が11月に実施した「健康経営に関する実態調査」の調査結果が公表されました。

大企業においては、健康経営優良銘柄、ホワイト500等が浸透しつつありますが、本調査は、東京都内の中小企業(従業員300人以下)を対象としているため、中小企業の健康経営への取り組みの実情を知る上で重要な資料と言えます。

http://msg.tokyo-cci.or.jp/mail/u/l?p=Je2Y9tqIIGw8uBvaY

詳細は上記リンクからレポートをご覧頂ければと思いますが、弊社として二点注目される点がありました。

一つ目は中小企業における健康経営推進のための課題についてです。

健康経営を実践するにあたっての課題の上位3位が、「どのようなことをしたらよいか分からない」、「ノウハウがない」、「社内の人員がいない」となっています。対応できる人材不足、ノウハウ不足が課題として認識されていることが分かります。

また、今回の調査の記入者の属性として、「代表者」が過半数を超えている点も中小企業の実情を示す結果として注目されます。中小企業においては健康経営に対してリーダーシップを取れる人材が経営者自身となっており、経営者は営業や資金調達等に忙しいため健康経営の取り組みがなかなか進まない―というのが、多くの中小企業での実情と推測されます。

大企業では人事・総務部門が中心となって健康経営を推進していることが一般的です。中小企業の場合は人事・総務部門の人員が少なく、給与計算、社会保険手続き等の定型作業に追われてしまっていたり、大企業に比べると人事・総務部門の業務のIT化が進んでいないことが原因で健康経営に手が回っていない企業が多い印象です。

近年、中小企業の給与計算や社会保険手続きを効率化するクラウドサービスが複数のベンダーから提供されていますので、そういったツールを導入して定型業務を効率化し、人事・総務部門が健康経営等の非定型業務に割ける時間を増やしていくことが中小企業での健康経営の推進のために必要と考えられます。

注目される点の二つ目は、健康経営に取り組んでいる企業が実感している効果の例として「従業員満足度の向上(定着率など)」 が一位になっている点です。

現在、多くの中小企業が空前の採用難に直面しています。リクルートワークス研究所の調査によると、2019年3月卒の求人倍率を従業員規模別に見ると、300人未満企業では9.91倍で過去最高となっています。一方で、5,000人以上企業では0.37倍と過去最低となっており、大企業と中小企業での採用力の二極化が進んでいることが如実に分かります。

http://www.works-i.com/pdf/180426_kyujin.pdf

こうした中小企業にとって厳しい採用状況を踏まえると、健康経営を推進することで、従業員満足度の向上(定着率など)が図られることは、従業員の離職を防ぎ、中小企業の競争力を高める可能性があり、健康経営に投資することに一定の合理性があると考えられます。

ただし、健康経営は、従業員満足度や定着を高める「魔法の杖」ではない点には注意が必要です。

非効率な業務方法による長時間残業、現在の状況に適合していない人事評価制度、マネジメント層のスキルのばらつき等、従業員の不満につながる要素は多くあります。弊社の経験では、健康経営に取り組んでいないことよりも、旧態依然とした人事評価、人材育成、組織風土に不満を覚える従業員が多い印象です。

健康経営に取り組む前に、そうした従業員の不満になりがちな要素を検討し、課題となっているものがあれば、そのうちで重要なものから優先度を付けて取り組んでいくことをお勧めします。自社の組織、制度については、自社のものが当たり前と思いがちですので、外部の専門家のアドバイスを受けるなど客観的な視点で評価、見直しを進めることが重要です。

以 上

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