テレワークを推進する上での留意点

はじめに

新型コロナウイルスの感染防止を目的として、日本においても、大都市、ホワイトカラーの職場を中心にテレワークが急速に普及していることについて、以前の弊社ブログで触れました。

日本においても、新型コロナウイルスの流行が収束した後も、テレワークが推進されることになるのは間違いないと思われるため、今回は、テレワークが従業員にもたらす影響のうち注意した方が良い点について学術研究の成果を参考に述べたいと思います。

テレワークの時間数と満足度、パフォーマンスの関係

これまで米国中心にテレワークの週当たりの時間数と職務満足度や仕事のパフォーマンスの関係について研究が行われていますが、テレワークの時間が多いほど職務満足度や仕事のパフォーマンスが良いという単純な直線関連になっていないことが分かっています。

テレワークの時間が中程度の人が、職務満足度や仕事のパフォーマンスが最も良い、あるいはテレワークが少ない人は職務満足度や仕事のパフォーマンスが低いが、テレワーク時間が中程度の人とほぼすべてテレワークの人では、職務満足度や仕事のパフォーマンスに差がないという結果が得られています。

このことの理由として、テレワーク時間が長くほとんどテレワークで勤務するような人は、職場の上司や同僚とつながりを感じられなかったり孤独感を感じることがマイナスに働いているのでないかということが示唆されています。

ただ、多くのテレワークの研究は一時点での調査であり、テレワーク時間が長くなると職場の上司や同僚とつながりを感じられなかったり孤独感を感じるという因果関係までは検証出来ていません。

この点について、中国で実施されたテレワークの有効性を検証した研究が参考になります。

中国のコールセンターでのテレワーク実験

中国最大の旅行代理店Ctripが上海のコールセンターの従業員(飛行機とホテル部門)を対象として、テレワークが仕事のパフォーマンスを向上させるのかを検証する実験研究を実施しています。

https://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/publications/does-working-home-work-evidence-chinese-experiment

この研究では、テレワークを希望する従業員をテレワーク群(4日間自宅で5日目はオフィス)とオフィス勤務群に分けて、9か月間、仕事のパフォーマンス(電話の対応件数等)を追跡しています。実験終了後、両群の仕事のパフォーマンスに差があったか検討したところ、テレワーク群の仕事のパフォーマンスの方が高い結果でした。

ここで注目したいのは、研究者が両群のパフォーマンスの推移を検討したところ、6か月後に介入群と対照群の差が縮まっていたという点です。この点について、著者らは、テレワーク群で孤独の影響が伺えた点、オフィス勤務群でパフォーマンスの低い従業員員が退職する傾向にあったことが理由ではないかと考察しています。

つまり、中期長期的には、テレワークの副作用が生じてテレワークによるパフォーマンスの向上等のメリットを減殺してしまう可能性があると言えます。

したがって、テレワークのメリットを100%享受するのであれば、いかに従業員が孤独感を感じるのを防ぐか、従業員の孤独感が副作用にならないような工夫が必要と考えられます。

テレワークの長期化によるデメリットを防ぐには?

テレワークの長期化に伴う孤独感によるデメリットを低減する方法を考える上で参考になるのが、2008年に公表された8万人規模のハイテク企業の従業員を対象に実施された研究です。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/chp.74

この研究では、テレワークで仕事上でつながりを感じられないことに伴う感情と仕事のパフォーマンス、退職意思の関連を検討しています。
結果のうち、注目したいのは、上司や同僚との対面でのやり取りが多い従業員とそうではない従業員に分けると、後者において、つながりを感じられないという感情と仕事のパフォーマンスの低さの関連性が強かった、という結果が得られています。

したがって、テレワークにおいてもなるべく上司や同僚との対面でのやり取りを維持することが、職場でのつながり失われてしまうことがパフォーマンスの低下につながってしまうことを防げる可能性があります。

今後の方針

これまでの結果を踏まえて、テレワークの推進については以下のようなことが言えるかと思います。

1.テレワーク下の従業員の状況の把握

テレワークしている従業員の職務満足度、ストレスについては直接対面で把握しづらくなるため、何らかの調査を実施して把握することをお勧めします。なお、テレワークをしていない従業員も含めて全従業員に対して同時に同じ調査を実施することが重要です。

これまでの研究からテレワークが普及している職場ではテレワークをしていない従業員が同僚に不満を感じやすいという研究もありますので、テレワークが出来ない業務に従事している従業員が不満を抱えていないか、感染リスクを強く感じていないかを把握するのことも重要です。

テレワーク下においては、従来の年に1回のストレスチェックや従業員満足度調査ではなく、数か月~半年に1回といった短い間隔での調査を実施し、テレワークしている従業員に孤独感といったテレワークの副作用が生じていないか注意深くモニタリングすることをお勧めします。

2.オンライン上の対面での交流機会の確保

テレワーク開始前にも1対1の面談等を定期的に実施した企業が多いと思いますが、テレワーク導入後には、その頻度を上げることをお勧めします。

これまで期末の面談しか上司との面談機会がなかった企業においても、少なくとも月曜日と金曜日に、10分程度でも上司がZOOMやSkypeといったツールを使って、オンライン上での対面でのコミュニケーションをする機会を設けることをお勧めします。なお、面談の際の話題としては必ずしも業務に限る必要はなく、業務外の話題を含む雑談でも構いません。

3.ローテーション出社の実施

感染症防止のためのいわゆる「3密」回避と対面でのコミュニケーションを両立させる方法としてローテーションでオフィスに出勤することが考えられます。

たとえば、下記のような2パターンを用意します。

Aパターン:月、水、金はテレワーク、火、木の午後はオフィスに出勤

Bパターン:月、水、金の午後はオフィスに出勤、火、木はテレワーク

部署のメンバーを2群に分けて、A⇒B⇒A、、、またはB⇒A⇒B、、、のパターンでオフィスへの出勤とテレワークを交互に繰り返すことが考えられます。

従業員のスケジューラの繰り返し機能を使って、月曜日のところに「月水金TW」といった予定を設定すると分かりやすいと思います。

なお、ローテーションを実施した場合には、部署の全体会議はオフィス勤務かテレワークかに関わらずオンライン上での実施とします。PC環境の平等性を確保する意味でも感染防止の意味でも会議室に出社した従業員が集合するのではなく、オフィス内の各PCを用いて参加することをお勧めします。

ローテーションの出社については、経団連が示している「オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」にも感染防止のための取り組みとして示されています。その他の企業現場においての感染予防の取り組み例が支援されていますので、サービス業や情報通信業といった通常時はオフィス勤務の業種の人事担当者の方には一読をお勧めします。

https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/040_guideline1.html

以 上

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