心理統計学を学ぶ際の落とし穴その2「p値は帰無仮説が正しい確率ではない」

今回は、心理統計を学ぶ上の落とし穴として仮説検定に触れます。
タイトルにあるように、「p値=帰無仮説が正しい確率」ではないことを理解することが目標です。

仮説検定の流れは一般的には以下のようになります。

1.帰無仮説と有意水準を設定する。
2.帰無仮説の下でデータ(=標本)の取り得る値とその確率を求める。
3.実際に得られたデータと2.の確率と付き合わせてその確率が有意水準以下であれば帰無仮説を棄却する。

1.帰無仮説と有意水準を設定する。

まず、実験者や調査者には確かめたい仮説があるはずです。心理学研究においては、帰無仮説は通常「母集団の相関係数は0ではない」、「母集団の平均は170㎝以上である」といった母集団に対する仮説となることがポイントです。前回も述べましたが、心理学研究においては、得られたデータをその場限りの結果とするのではなく、得られた結果が、ある母集団から得られた標本だと考えて母集団に関する主張を行うのが特徴です。

心理統計学を学ぶ際の落とし穴その1「母集団と標本の区別」

次に、確かめたい仮説の裏返しとなる仮説を設定します。これを帰無仮説といいます。「母集団の相関係数は0ではない」という仮説であれば、「母集団の相関係数は0である」が裏返した帰無仮説となります。なぜ確かめたい仮説そのものではなく、裏返しとなる仮説を検討対象とするのかというと、得られたデータによって帰無仮説が否定される(専門用語では棄却されると言います)ことによって、確かめたい仮説を主張するというのが統計的な仮説検定のロジックだからです。

これは少し奇妙かもしれませんが、刑事ドラマなどでホワイトボードに関係者や証拠の写真を貼って主役の刑事が推理する以下のようなシーンを思い浮かべて頂ければと思います。

 

「A氏が犯人だとすると、犯行時刻には犯行現場にいなければならない」「A氏は犯行時刻に犯行現場以外の場所で知人と会っていたという証言が得られた」
「したがってA氏は犯人ではない」

刑事はこの作業を繰り返して、犯人の候補を絞っていく訳ですが、刑事にとっては、「A氏が犯人である」というのが帰無仮説という訳です。

 

帰無仮説を決めたら、有意水準を決めます。有意水準というのは、帰無仮説が正しい時に起こり得るが極めて稀であると考える確率の値のことです。心理学分野では5%、あるいは1%が有意水準として設定されることが一般的です。先ほどの刑事の例のように「起こり得ない」と断言出来れば良いのですが、そうでない場合も、極めて起こりづらい稀な出来事であれば、帰無仮説が正しい時には「まず起こり得ない事象」と判断し、帰無仮説を棄却する訳です。「極めて起こりづらい稀な出来事が起こっていたらどうするの?」と思われる方もいるかと思いますが、「その場合は帰無仮説を誤って棄却することになるが、已むを得ない」と統計学は考えます。数学と異なり統計学は割り切りの学問なのです。

2.帰無仮説の下でデータ(=標本)の取り得る値とその確率を求める。

この部分は純粋に統計学的なお話になります。正規分布のように母集団として標本との関係が数学的に求められる確率の道具を使用すると、「母集団を平均170の正規分布とした時、標本として180以上の値が得られる確率は△%」といった計算を行うことが出来ます。心理統計学を学ぶ立場としては、ある帰無仮説を表現するのに、どのような確率の道具が用いられているかを理解するだけで十分です。メジャーなものからマイナーなものまでさまざまですが、まずは正規分布、二項分布を理解することが重要です。

3.実際に得られたデータと2.の確率と付き合わせてその確率が有意水準以下であれば帰無仮説を棄却する。

最後に、実際に得られたデータの数値と、2.で述べた帰無仮説が正しい時に得られる数値とその確率を見て、帰無仮説が正しいとしたら、今回得られたデータの数値よりも極端な事象が起こり得る確率はどの程度なのかを求めます。この確率が有意水準を下回っている場合に、帰無仮説を棄却します。言い換えれば、「帰無仮説が正しい」ということと、今回得られたデータの数値に整合性があると言えるのかを検討して、整合性がないと考えれば、「帰無仮説が正しい」という考えを捨ててしまう訳です。

帰無仮説がぎりぎり棄却される有意水準のことをp値と呼ぶことがあります。統計ソフトや論文の結果の数表で「p<0.05」、「p=0.04」となっているのを見たことがあるという方も多いかと思います。p値が0.04(=4%)というのは、有意水準が4%であれば帰無仮説がぎりぎり棄却されるということなので、有意水準を予め5%としていれば当然帰無仮説が棄却されることになります。つまり、p値は帰無仮説が正しい確率ではなく、「帰無仮説が正しいとした場合に、得られたデータの値から帰無仮説を棄却出来る有意水準の値」です。帰無仮説が正しいかどうかは問題ではなく、帰無仮説は正しいことが前提となっていることに注意が必要です。

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以 上

 

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