ジョブ型雇用とワークエンゲイジメント

はじめに

昨今「ジョブ型雇用」という言葉が注目を集めています。ジョブ型雇用とは、これまで日本で主流と思われてきた「 メンバーシップ型雇用」との対比される雇用のあり方です。

メンバーシップ型雇用とはいわゆる「就社」と呼ばれるものです。入社する際には特定の職種ではなくゼネラリストとして採用され、その後企業の中で定期的なローテーションを通じてスキルを磨いていくというのが基本です。終身雇用が前提であり、転勤も含めて異動や職種転換は企業の指示に従うのが原則となります。

研究職等特定の職種として採用される場合もありますが、研究部門が縮小されたり廃止された際にもそこで即解雇されるのではなく、社内の他の職種に転換するといったことも珍しくありません。

これに対して、ジョブ型雇用では、企業の中での仕事の要件を定義し、その仕事にふさわしい人を採用していくのが基本となります。ジョブ型雇用の場合は、採用時に明示された自分のジョブの職務のみ担当し、企業の指示により他のジョブに転換されるということは想定していません。

自分のジョブを変えたい、あるいはより上級のジョブに就きたい場合は、本人が自律的に社内公募でジョブを探して応募したり、社外に転職してジョブを見つけることになります。ジョブ型雇用では、経営環境の変化等により、ジョブが不要になった場合は、転職等により他の企業でジョブを探すのが基本となります。

この「ジョブ型雇用」に関する書籍が多く出版されるなど注目を集めている背景の1つとしては、デジタル化(DX)が進む中、デジタル関連人材を採用する際に、職種別のジョブ型雇用の方が相性が良いということが挙げられます。デジタル人材の多くが新卒時点で一定上の専門性を有し、職場よりも職種にアイデンティティを持っていることが多いため、就職後の部署や職種が確約されるジョブ型雇用を望むのは当然とも言えます。また、高度な専門性を有するデジタル人材は圧倒的な供給不足のため市場価値が高騰していますが、メンバーシップ型雇用では社内での報酬の平等性が重視され、そういった市場価値に見合った報酬を提示することが難しいといった点もデジタル化に関連してジョブ型雇用に注目が集まっている背景の一つと考えられます。

次に考えられるのは、大学生、特に有名大学の学生において外資系金融機関や外資系コンサルティング会社のようなジョブ型雇用型の企業の人気が高いことです。優秀な新卒人材を獲得したい企業が人材獲得上の戦略としてジョブ型雇用の検討を進めているということも考えられます。

最後に、コロナ禍を契機として普及したテレワークにおいては、職務が明確なジョブ型雇用の方が仕事のパフォーマンスを挙げやすいと思われていることもあるかもしれません。

ワークエンゲイジメントはどう決まる?

さて、ここからは、これまで述べたジョブ型雇用が従業員のワークエンゲイジメントにどのような影響を与えるかを考えてみましょう。その前段階として、ワークエンゲイジメントがどのような要因で決まってくるのかを復習したいと思います。

ワークエンゲイジメントは、仕事の要求度と資源の影響を受けますが、資源の影響が相対的に強いことが明らかになっています。仕事の要求度は、仕事の量的な負担や情緒的な負担であり、資源は、個人の資源と仕事の資源から構成されます。資源のうち、個人の資源とは自己効力感や楽観性といった個人が持っている心理的な資源です。

これに対して仕事の資源とは、仕事や職場の特性としての資源です。例えば、仕事のやりがいであったり、仕事の裁量(自分でやり方やペースを決められる)、職場の上司や同僚からのサポートが該当します。

つまり、個人の自己効力感や楽観性が高い場合や、仕事のやりがいや裁量度が有り、上司や同僚との関係性が良好で支援が受けられる状態であればワークエンゲイジメントが高くなると言えます。

ジョブ型雇用がワークエンゲイジメントにもたらすプラス面

ここまでに述べた、ワークエンゲイジメントの決定要因を踏まえると、ジョブ型雇用においては、ローテーションで配属された部署の仕事ではなく、自分が得意だと思っている仕事や専門性のある仕事を担当できることによって仕事のやりがいが高まる結果、ワークエンゲイジメントが向上する可能性があります。

また、より自分にあった仕事をすることにより成功経験を積みやすくなり自己効力感が向上することもワークエンゲイジメント向上に寄与する可能性があります。

ジョブ型雇用が導入され、人事評価もよりアウトプット重視となり、自分の仕事の進め方の自由度が高まった場合にも、ワークエンゲイジメントが向上する可能性もあります。

ジョブ型雇用がワークエンゲイジメントにもたらすマイナス面

さて、ここからはジョブ型雇用がワークエンゲイジメントに及ぼす影響のうちマイナス面を考えてみたいと思います。

まず、ジョブ型雇用の導入に際して懸念されるのは、上司同僚からのサポートを受けづらくなる可能性があるということです。。

現在のメンバーシップ型雇用が主流の大企業においては入社後複数の部署をローテーションすることが行われています。この過程において、同じ会社の様々な従業員と上司や同僚として仕事をして知り合い関係性を構築することになります。そのため、仕事で分からないことが有った場合に、他部署所属であっても、過去に異動で勤務経験のある部署での上司や同僚に相談することが出来ます。メンバーシップ型雇用の企業では新卒採用が中心となるため同期入社した従業員同士の結びつきが強く、仕事の相談をする、定期的に集まって励まし合う等仕事をする上での支えになることも多いのではないでしょうか。

一方で、ジョブ型雇用の場合は基本的には入社時のジョブを担当することになります。その結果、そのジョブに関係しない人間関係は発達しづらく、社内での部署を超えた人的ネットワークの形成が難しい可能性があります。そのため、特に同僚のサポートが少なくなり、ワークエンゲイジメントの向上を妨げる可能性があります。

また、ジョブ型雇用に伴い、転職を通じて同一ジョブ内でのキャリアアップを図ることになった場合、現在の上司や同僚との関係が長期的な関係を前提としたものでなくなるため、その関係性が現在よりも希薄化する可能性もあります。他社に良いポジションがあれば転職する可能性がある状態で、上司や同僚に個人的な悩みを相談出来るまでの関係性に至るのは難しいかもしれません。

さらに、ジョブ型雇用を採用している企業においては、採用や評価に関する人事権が人事部門から現場のマネージャーに移っていることが一般的です。そのため、メンバーシップ型雇用以上に上司の顔色を伺う必要があるため、部下からすると上司との関係性がメンバーシップ型雇用の場合よりもストレスフルなものになってしまう可能性があります。 また、悩みを抱えていても、上司に能力がないと思われる懸念から相談しづらい、といったこともあるかもしれません。

まとめ

ここまで、ワークエンゲイジメントに関するが学術的な理論をもとに、ジョブ型雇用がワークエンゲイジメントに及ぼす影響を考えました。ジョブ型雇用がワークエンゲイジメントに及ぼす影響には、プラス面とマイナス面があると考えられるため、ジョブ型雇用の導入に際しては、上記での述べたマイナス面を最小化し、プラス面が最大になるような制度設計が求められます。

以 上

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