2018年度公認心理師試験対策最終確認問題の回答傾向分析

 

はじめに

さる8/29に公開(現在は公開終了)した弊社の2018年度公認心理師試験対策最終確認問題(https://better-options.jp/2018/08/29/2018%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E5%85%AC%E8%AA%8D%E5%BF%83%E7%90%86%E5%B8%AB%E8%A9%A6%E9%A8%93%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E6%9C%80%E7%B5%82%E7%A2%BA%E8%AA%8D%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%82%92%E7%84%A1/)の回答傾向分析を行いましたので報告します。ご回答頂いた受験生の皆様には御礼申し上げます。今回出題したのは下記の15問(5択)でした。

  1. 心理統計(変数の変換)
  2. 心理統計(クロス集計表)
  3. 心理統計(総合)
  4. 組織心理学・安全文化
  5. 知覚・認知・脳神経
  6. 性格心理学
  7. 公認心理師法(名称の使用)
  8. 公認心理師法(信用保持、守秘義務、医師の指示)
  9. 保健医療に関する法令(精神保健福祉法)
  10. 教育に関する法令(総合)
  11. 福祉に関する法令(虐待防止関連制度)
  12. 司法・犯罪に関する法令(少年法)
  13. 労働関連法令
  14. 労働安全衛生管理体制
  15. ストレスチェック制度

回答者の属性

分析の対象者は、プロフィール情報にすべてご回答いただいた253名です。

まず、回答者の主に従事している領域の分布を示しました。回答者に占める割合が高い順に、「教育」、「保健医療」、「福祉」、「その他」、「司法/産業」となりました。司法と産業については、回答時点では別個のカテゴリでしたが回答者数が非常に少なかったため、「司法/産業」として合併して分析することにしました。

「平成26年度 厚生労働科学特別研究事業 心理職の役割の明確化と育成に関する研究(主任研究者:村瀬嘉代子)」を踏まえ、厚生労働省障害保健福祉部精神・障害保健課で整理された各領域の心理職の推計割合(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000138808.pdf)と今回得られた各領域の割合が類似した数値であることから、各領域の心理職が偏りなく弊社最終確認問題を受験したことが推測されます。弊社最終確認問題の受験者が公認心理師試験の受験者の標本と考えると、第一回試験に関しては各領域の心理職が万遍なく受験したことが推測されます。

なお、図の「その他」の領域には、現在心理職としての業務を行っていない・大学等の研究機関勤務・上記いずれとも言えない等の回答者が含まれています。弊社講座を受講頂いた方の中には大学等の教員の方が一定数含まれたことから、公認心理師試験受験生の一定の割合を、今後公認心理師を養成する公認心理師養成課程の教員が占めていると推測します。

主に従事している領域別に見た正答率

全15問の正答率を主に従事している領域別に算出しました。正答率に関しては領域別で統計的に有意な差はありまでした。また、正答率の分布を見てみましたが、低得点者と高得点者に分かれることもなく、山形の正規分布に近い形になりました。なお、今回の最終確認問題で正答率が60%以上となった受験者の割合は約17%でした。

次に、設問別に主に従事している領域別の正答率を見てみます。当初「主に従事している領域に近い分野の問題では正答率が顕著に高くなる」という仮説を持っていました。しかし、「司法/産業別」に従事する回答者が労働法令や組織心理学・安全文化の設問で正答率が顕著に高い、あるいは「教育」に従事する回答者が教育に関連にする法令で正答率が顕著に高い、といった傾向は見受けられませんでした。むしろ、領域別よりも設問ごとの差が大きいのが特徴と言えます。具体的には知覚・認知・脳神経を除く心理統計を含む基礎心理分野で正答率が低く、公認心理師法に関する設問、産業分野以外の領域の制度に関する設問では概ね正答率が高くなっていることが分かります。

試験対策前は従事している領域ごとに得意不得意の差が有った可能性がありますが、現任者講習会や試験に向けた対策によって各領域の基礎的な知識に関しては主に従事している領域による差が小さくなった可能性があります。


組織心理学・安全文化と性格心理学に関しては弊社の想定よりも低い正答率でした。本番の試験においても、基礎心理分野での正答率が低かった可能性があります。「公認心理師法も含めて制度面に力を入れたが想定よりも出題数が少なく、逆に基礎心理学分野での出題が多かった」という受検者の感想を多く聞きますので、事例問題の正答率にもよりますが、弊社で試験半年前に実施した公認心理師試験に関するアンケート調査結果(https://better-options.jp/wp/wp-content/uploads/2018/04/BTOPreport_20180416.pdf)においては、60%台の合格率を予想する受験生が最多でしたが、実際の合格率は、それよりも低い40%~50%の合格率となる可能性もあります。

弊社講座受講状況と正答率

弊社講座の受講状況と今回の最終確認問題の正答率の関連を見てみました。弊社Eラーニングには心理統計分野および産業分野の重点対策分野が含まれ、5月、7月に産業および心理統計、8月に心理統計のセミナーを実施しております。そこで、弊社Eラーニング、セミナーの受講経験別に、労働関連法令、労働安全衛生管理体制、ストレスチェック制度の3問と労働分野と心理統計3問の合計6問の正答率を算出しました。Eラーニングとセミナーの両方を受講頂いた方の正答率が最も高く、以降、Eラーニングのみを受講頂いた方、セミナーのみを受講いただいた方、いずれも受講ない方の順となりました。

弊社講座の一定の効果を示していると考えることも出来ますが、4つの受講パターンの正答率について統計的に有意差が出るまでには至っておりません。産業・心理統計分野は、苦手な方が多いとは言っても、最終確認問題を実施した8月末の試験直前期においては、受験生の多くが弊社以外のセミナー、教材、あるいは弊社のブログの予想問題等で追い込みをかけた結果、産業・心理統計分野に関して受験生全体のレベルが全体的に底上げされた可能性があります。今後は、弊社講座を受講頂いた方が圧倒的に正答率が高くなるように、教材内容等の拡充、改善に努めて参ります。

設問間の相関関係

最後に設問同士の正答誤答のパターンにどのような関係があるかを検討しました。各設問に対する回答は正答と誤答の2つの値を取りますので、通常の連続変数に用いるピアソンの積率相関係数ではなく、ポリコリック相関係数を算出して検討します。

ポリコリック相関係数の解釈は通常のピアソンの積率相関係数と同様で、2つの設問間のポリコリック相関係数が1に近い場合は、2つの設問をともに正答(あるいはともに誤答)する回答者が多いことを示し、-1に近い場合は、一方の設問を正答しもう一方は誤答する、つまり、2つの設問の正誤が反対の回答者が多いことを示します。0に近い場合は、2つの設問間にそういった正答誤答パターンの関連が見られないことを意味します。なお、図では、棒の長さが相関係数の大きさを示しており、プラスの相関係数の場合は青、マイナスの相関係数の場合は赤になっています。

たとえば、上から1番目の心理統計(変数の変換)と上から2番目の心理統計(クロス集計表)のポリコリック相関係数が0.23となっています。この2つの設問はどちらも正答あるいは誤答する回答者が多かったことが分かります。一方で、心理統計(変数変換)と上から4番目の組織心理学・安全文化のポリコリック相関係数が0.02でほぼ0ですので、両者正答誤答のパターンには関連がほぼないことが分かります。

このように見ていくと、心理統計(変数の変換)と心理統計(クロス集計表)について、他の多くの設問との間でポリコリック相関係数がマイナスとなっています。これは、弊社の問題が適切でなかった可能性もありますが、そもそも心理統計が公認心理師試験の試験領域の中では異色な領域であることを示している可能性があります。第一回公認心理師試験の結果でも、心理統計や実験計画について問う設問群と、その他の知識問題群ではポリコリック相関がマイナスになっている可能性もあります。

その他の設問を見ても、知覚・認知・脳神経と性格心理学の相関係数の値がほぼ0となっているなど、全般的に0.2未満の相関係数が多く、全般的に設問間の関連性が薄いことを示しています。因子分析でいえば非常に多くの因子が抽出される状態とも言えます。出題基準(ブループリント)で示された範囲の広さからも想定されるように、公認心理師試験は、100m走,走り幅跳び,砲丸投げ,走り高跳び、、、と毛色の違う競技をこなす陸上の10種競技のような試験となっている可能性があります。

来年度試験に向けての示唆

今回の最終問題の回答傾向を分析して、出題者の狙い通りに理解している受験生が正答し、そうでない受験生が誤答するという適切な試験問題を作成し、かつ正答率を一定の範囲に収めるというのは非常に難しいということを再実感しました。出題範囲が非常に多岐にわたり、かつ事例問題のように客観的な正答を作りにくい問題が含まれる公認心理師試験においてはなおさらだと思います。

第一回目の公認心理師試験問題では、正答を導くための条件が足りない問題や、日本語が分かりにくい問題、正答複数存在するように思われる問題等が散見されました。出題委員には心理統計学の専門家が2名含まれていますので、おそらく実際の回答傾向をより精緻に分析し、その結果が来年度以降の出題の改善に活かされると思います。場合によっては、2019年度以降の試験の出題傾向、形式に大幅な変化がある可能性も否定できないと思います。第一回目の出題内容、形式に過度に影響されることなく、出題基準(ブループリント)の範囲の内容を理解、記憶し、定着度を適宜確認するという正攻法の試験対策が望まれると思います。

 

以 上

 

 

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