【ベターオプションズ式】嘱託産業医の探し方、選び方のコツ

はじめに

弊社では「良い産業医を紹介してほしい」、「産業医をどのように探せば良いか」といった、嘱託産業医の選任に関するコンサルティングや紹介のご依頼を受けることがあります。そこで今回は、産業医の探し方、選び方について解説します。

産業医に対するニーズの整理と明確化

嘱託産業医の選任に関連する相談を受けた場合、弊社では、まず「産業医に対する自社のニーズ、求めることを整理し明確化する」をことをお勧めしています。その理由は、産業医に対して不満を抱えている会社では、往々にして産業医に対して求めることが明確に産業医に伝わらないまま産業医が選任されていたり、そもそも産業医に求めるべきではないことを要求しているためです。会社と産業医の間で、お互いの期待、認識がミスマッチにしている状態とも言えます。

産業医に対するニーズの整理や明確化を行うに当たっては、産業医を選任する事業者側が、産業医の業務について正確に理解しておくことが重要になってきます。法令上産業医が担当することが求められている、(安全)衛生委員会への出席、職場巡視以外にも、長時間労働者への面接指導やストレスチェックの高ストレス者への面接指導等産業医の職務とされているもの、休業した従業員が復職する時の可否判断に対して意見を述べるといった役割も期待されています。

したがって、単に漠然と「産業医業務を依頼する」という心構えではなく、産業医に依頼する業務を洗い出して、今一度自社として産業医にどのような業務を委託するのかを明確にすることが重要です。

産業医に対するニーズの明確化に関して、産業医に対して会社の代弁者として会社に都合の良い動きを期待する企業が存在しますが、これは誤りです。産業医は、会社に選任され、報酬を得る立場ですが、あくまで中立的な立場で従業員の健康管理を行う役割を期待されており、行政の方向性としても働き方改革を受けて、産業医の事業者への勧告権が強化されたり、産業医の中立性、独立性をより強化するよう方向で法令改正が進んでいます(https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000348576.pdf)。したがって、産業医に対し、「問題社員に退職を勧奨してほしい」「会社に都合の悪いことは指摘しないでほしい」といった会社側に都合がよい働きを期待することはお門違いと言えます。

弊社でもメンタルヘルス関連の従業員への対応に苦慮し、産業医に期待する声を聴くことがありますが、産業医が対応してどうにかなる問題であることはほぼ皆無です。往々にして、就業規則を初めとする人事関連の社内規程や休復職プロセスに不備があったり、事業者として毅然として対応すべきところで腰が引けていたり、会社と従業員のコニュニケーションが不足していたり、法令上求められる内容について従業員に周知がされていない等、本来事業者として果たすべき役割が果たせていないことに端を発していることが多いです。

さて、産業医を選任する際に産業医報酬について気にされる担当者が多く存在しますので少し説明します。産業医の報酬体系は、毎月の一定時間までの稼働に対する固定報酬と超過分につき従量報酬となっていることが大半です。固定報酬部分についても産業医サイドとしては時間当たりの単価×稼働時間で考えますので、前述の産業医に依頼する業務の洗い出しと明確化が済んでいれば、産業医サイドからの報酬の提示が容易です。

なお、産業医の稼働1時間あたりの目安としては1.5~2万円(大都市圏以外の地域ではもう少し低い傾向)と言われています。したがって、たとえば、月に一度の衛生委員会への出席(1~1.5時間程度)に面接指導、職場巡視、休復職等の相談で月に4時間稼働すると固定報酬部分で6万円~8万円程度となります。従量部分についても基本的には1.5~2万円で計算されることが多く、ストレスチェックや休復職対応を依頼業務としていた場合に、高ストレス者に対する面接指導が多く発生したり、休復職事例が多く発生した月には場合等には従量のコストが発生することになります。なお、ストレスチェックに関しては面接指導も含めて稼働が読めない場合があるため、報酬を別建てとし、別途協議の上決定している例も多く見られます。

産業医の探し方

産業医を探す方法としては、大きく分けて、産業医紹介会社、医師会への紹介依頼、、産業医事務所や株式会社として産業医業務を行っているいわゆる独立系の産業医が考えられます。

産業医紹介会社を利用するメリットは、産業医候補となる医師の登録者数が多く、多くの候補者から条件にマッチした産業医を探すことが出来ることや、産業医会社が間に入って紹介を行ってくれることです。きちんとした紹介会社では、面接等により産業医としての資質の確認を行っていることもあります。デメリットとしては、産業医紹介会社に登録している医師の産業医業務への関与度、経験、熱意が千差万別であることです。たとえば、臨床業務が中心で月1~2日程度産業医業務を行っているという医師の場合、産業保健の最新事情にやや疎かったり、産業医としての経験量が少ない場合もあります。

ちなみに、産業医紹介会社の中には月1回1時間の稼働を標準としている会社が存在しますが、さすがに月1時間の稼働で(安全)衛生委員会、職場巡視等の実質的な産業医業務を行えるとは思えません。弊社が仄聞する限りでは、実質的に産業医が稼働している企業では、月一回でも最低3時間程度は稼働時間が確保されていることが通常です。

医師会への紹介を依頼するパターンでは、地域の事情に通じた医師を産業医として紹介してくれる、あるいは、医師会ネットワークで専門科の医師の受診が必要な場合に産業医から他の医師への紹介が行いやすいというメリットがあると思います。デメリットとしては、医師会の産業医紹介は主要業務として行っている訳ではないため、必ずしも産業医を紹介できない場合があるということです。特に、昨今産業医を選任するべき規模の事業場に対しては労働基準監督署から厳しく選任の指導がされていますので、医師会に紹介を依頼したが紹介できる医師が存在しないと言われたという事例もあります。

最後の独立系の産業医ですが、臨床医を経て産業医を開業したパターン、産業医大を卒業後大企業での専属産業医を経て開業したパターン等があります。そのメリットとしては、ホームページ等で経歴、経験業種、報酬の目安等が開示されていることが多いこと、定型のパッケージが有る場合もありますが、事業者のニーズに柔軟に対応して契約を締結できることが多い点です。産業医を専業で行っている場合には、産業医業務に対する熱意やスキルが一定以上にあるものと推測されます。一方で、デメリットというよりは、確認事項として、地域の他の医師等を紹介、または連携して対応できる態勢であるかどうかの確認は必要です。産業医は産業医同士でネットワークがあることが多いですが、地域の医師会に所属しているなど、産業医以外のその地域の専門科の医師とのネットワークもあったほうがよいでしょう。また、小規模な産業医事務所であれば、メール等の対応を産業医自身が行っている場合がありますが、やり取りをする中でレスポンスの速さや、意思疎通のしやすさ等問題ないかは確認しておきましょう。

契約書の締結

産業医を探して、明確にした自社のニーズをもとに産業医と打ち合わせ契約締結の合意に至ったら、委託する業務内容を明確化した内容を契約書に落とし込む段階です。その際には細かいことですが、毎月の報酬に加えて産業医が事業場以外の場所に出張することになった場合の費用(交通費、宿泊費等)等、想定できる部分について可能な限りについても想定して契約書に盛り込んでおくことが重要です。この辺りは、通常の業務委託契約を双方疑義のないように詰める作業と変わりません。

なお、産業医契約については、各地の医師会がひな形を公開していますが、これらをそのまま利用するのはお勧めしません。

千葉県医師会によるひな形

福岡県医師会によるひな形

上記の契約書ひな形もそうですが、産業医契約書では往々にして、産業医に委託する業務として、「労働安全衛生規則第 14 条及び第 15 条に定 められた職務及びこれに付随する業務(別表参照)を行うものとする。」 とすることが多いですが、労働安全衛生規則第 14 条及び第 15 条自体が具体性を欠くことから、別表に労働安全衛生規則第 14 条及び第 15 条に内容も含む産業医に委託したい職務を可能な限り具体的かつ疑義が生じない形で記載するべきと考えます。

また、契約の有効期限については、「期間満了の1ヵ月前までに、甲または乙のいずれかからの申し出がない場合、本契約は同内容により更に1年間更新するものとし、以後も同様とする」といった自動更新の条項が一般的です。弊社では、契約書の本体は毎年の更新は必要ないと考えますが、 「なお、別表については、前項の期間満了の1ヵ月前までに、甲または乙がその内容を協議したものを2部作成し、押印の上で双方保存する」といった別表だけでも毎年更新する仕組みにすることをお勧めします。労働安全衛生規則及び労働安全衛生法が毎年のように改正されていることから、産業医に委託する業務内容については事業者と産業医の間で毎年確認することが、双方の認識相違を防ぐことにつながります。

最後に

産業医に関しては、これまで「法令上選任が求められているからとりあえず選任する」といったスタンスの企業が多かったのも事実ですが、ストレスチェック制度義務化、働き方改革以降、その重要性が認識されつつありますす。最近では、従業員の高齢化伴う従業員のがん治療との両立支援が喫緊の課題となる等、今後の企業の存続のためのキーパーソンの一人と言っても過言ではありません。この機会に産業医とのより前向き連携を改めて考えてみては如何でしょうか?

以 上

 

 

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