公認心理師試験対策のための法律の勉強法

はじめに

公認心理師試験においては、心理学、精神医学関連の知識以外にも、保健医療、教育、福祉、産業・労働、司法・犯罪各分野の法律に関する理解を問われます。第一回の試験問題では、法律本体のみならず法律に紐づく指針の内容に関する理解が問われる問題が出題される等予想以上に難易度が高いと感じられた受験生がいたのではないでしょうか?とはいえ、公認心理師試験は法律家になるための試験ではありませんので、法律家になるための勉強は全く不要です。そこで、今回は、公認心理師試験のための法律の効率的な勉強法について解説します。

出題基準に含まれる法律のグループ分け

まず、公認心理師試験の出題基準に含まれる法律を、一般的な内容を定めた法律①、特定の内容について定めるやや一般的な法律②、特定の内容について定めた個別性の高い法律③、の3グループに分けます。一般的に、法律の名称が長いほど個別具体的な内容を定めた法律となりますので、①は民法と刑法、②は漢字で3~5文字の法律、③は漢字で6~7文字以上の法律が目安です。

①民法、刑法

現在存在する、さまざまな法律の一般原則を定めた法律群です。その内容が抽象的かつ広範囲に渡るため、独学での対策が非常に難しいです。極論、試験対策上は捨てても良いと考えます。

ただし、心理職として活動していく上では、民法、刑法の基本的な知識があったほうが良いことは言うまでもありません。そこで、試験対策に余裕がある、万全を期したい方は、資格試験予備校が出版している公務員対策等を対策にした薄めの民法、刑法を扱っている「法律入門」といった書籍を一読することをお勧めします。

逆に、法学部生用の法学者が出している「民法入門」「刑法入門」といった書籍はお勧めしません。初学者向けとは言っても厳密性を担保するため記述が多くなっていること、理論に偏った内容となっていることが多いためです。その点資格試験予備校の書籍では、試験対策としての割り切りがされており、一通り読み通すのにはこちらを勧めします。

②労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、少年法、教育基本法、学校教育法等

特定の目的を持ち、特定の対象に適用される法律群です。民法、刑法よりも、一般性が薄く個別性が高くなりますが、制定されたから歴史が長いことや、分量が多いため独学が難しい法律です。全体像を知るためには、各領域の法律を概説した薄めの参考書を一読することをお勧めします。労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法に関しては、若干内容が古くなっていますが、 水町勇一郎 著「労働法入門 (岩波新書)」をお勧めします。歴史的な経緯や制度の趣旨、内容が要領よくまとまっていて、かつ新書で価格も安くお勧めです。

③過労死等防止対策推進法、自殺防止対策推進法、児童虐待防止法、高齢者虐待防止法、いじめ防止対策推進法等

特定の目的のために最近制定された法律のグループです。これらの法律は分量が少ないため、解説書籍が少なく、あったとしてもその分野の法律家や公務員向けに一条一条を解説した専門書籍になりますので、それぞれの法律を所管する官庁の資料を利用して独学することをお勧めします。所管の官庁で作成された資料を用いるのは信頼性が高いためです。次節以降では、この③に属する法律である過労死等防止対策推進法(所管:厚生労働省)を所管の官庁で作成された資料を用いて勉強する方法について説明します。

法律に関する資料の検索と概要の理解

法律名+概要といったキーワードで検索して、所管官庁による資料を探します。

たとえば、過労死等防止対策推進法であればこのような形で公表されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053525.html

所管官庁による資料を公表しているサイトでは、法律の概要を説明した資料があることが多いので探します。この資料は、官僚が政治家をはじめとする関係各所に説明するための資料のため、法律の理解に最低限必要な情報が詰め込まれています。この資料により法律の目的と大枠の把握、登場人物、手続きのフロー、関連する命令、指針を理解します。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000061175.pdf

第一回公認心理師試験では、過労死等防止対策推進法における「過労死等」の定義が問われる設問がありましたが、実はこの資料だけで解答が可能です。

法律によっては所管の官庁や関連の外郭団体が作成した一般啓発用資料が存在します。たとえば、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)であれば下記のようなリーフレットが存在します。http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/law/pdf/140527dv_panfu.pdf

一般向けに分かりやすく概要が解説されているので、利用しない手はありません。注意点としては、最新の改正にもとづく資料を参照するようにします。先の所管官庁のホームページや後述するe-govを参考に、最新の改正日を把握し、それに対応した資料かを確認してから参照します。一般向けの啓発資料の作成が最新の法律改正に追い付いていない場合がありますので要注意です。

条文の読解

次に、実際に条文を読みながら、内容を確認します。法律の条文と聞くと読みにくいと思われる方がいるかもしれませんが、①、②グループの法律に比べて③の法律は比較的最近制定された法律が多く、読みやすいものになっています。また、法律の条文と言えば、一昔前は六法でしたが、現在はインターネット上のe-govのようなサイトで容易に検索することが可能です。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0100/

それでは、過労死等防止対策推進法を検索して条文を確認していきます。

目的

法律の第一条には法律の目的が規定されていることが一般的です。まず法律の目的を確認します。法律はある目的を達成するための手段であり、その目的を達成するため、法律内に、さまざまな主体に義務を課したり権利を与えたりして法律の目的を達成する仕組みになっています。したがって、法律の目的を理解することが法律を理解することを容易にしてくれます。過労死等防止対策推進法であれば、過労死等に対する調査研究、対策推進により健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的として制定された法律であることが分かります。

第一条 この法律は、近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が、本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失であることに鑑み、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的とする。

用語の定義

次に、法律上の用語の定義についても確認します。試験対策上も法律上の用語の定義が問われることが予想されます。なお、第一回試験で過労死等防止対策推進法における「過労死等」の定義が問われたのは先に述べた通りです。

第二条 この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。

やや読みにくいかもしれませんが。「又は」「若しくは」は英語ではORにあたる法令用語です。大きなグループに「又は」、小さなグループに「若しくは」を用いるのが基本です。

  • 業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡
  • 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡

又は

  • これらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害

という構造が理解できればOKです。

「過労死等」の定義の中に死亡以外の脳血管疾患、心臓疾患、精神障害も定義に含まれており、過労死等防止対策推進法は、いわゆる過労死のみならずその原因となり得る脳血管疾患、心臓疾患、精神障害も対象として、調査研究や対策を行う法律であることを理解するのが重要です。

法律上の登場人物とその義務、権限

法律の目的、用語の定義を確認したら、法律内のさまざまな登場人物とその義務、権限について確認します。先述したように法律は、特定の目的を達成するためにさまざまな主体に義務を負わせたり権限を与える、芝居で言えば脚本にあたるものです。試験対策作成側としては法律内の主語を入れ替えて誤答の選択肢を作ることが出来ますので、「誰が義務を負うのか」といった義務の主体、「誰がどのような権限を与えられているのか」といった権限の主体と内容については表で整理することをお勧めします。また、「~しなければならない」は義務、「するよう努めなければならない」は努力義務ですので、区別して理解します。

第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、過労死等の防止のための対策を効果的に推進する責務を有する。
2 地方公共団体は、前条の基本理念にのっとり、国と協力しつつ、過労死等の防止のための対策を効果的に推進するよう努めなければならない。
3 事業主は、国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策に協力するよう努めるものとする。
4 国民は、過労死等を防止することの重要性を自覚し、これに対する関心と理解を深めるよう努めるものとする。

法律によっては、法律の目的、内容の啓発を行うために、一定の期間を啓発のための期間として指定している場合があります。過労死等防止対策推進法では、「過労死等防止対策啓発月間」が11月とされています。こちらも期間の数字を入れ替えることで誤答の選択肢を作ることが出来ますので、正確に数字を記憶しておくことが重要です。「○○対策推進法」という名称の法律には啓発のための期間が設定されていることが多いです。

(過労死等防止啓発月間)
第五条 国民の間に広く過労死等を防止することの重要性について自覚を促し、これに対する関心と理解を深めるため、過労死等防止啓発月間を設ける。
2 過労死等防止啓発月間は、十一月とする。
3 国及び地方公共団体は、過労死等防止啓発月間の趣旨にふさわしい事業が実施されるよう努めなければならない。

法律上の機関の役割や手続き

法律によっては●●協議会、○○審議会、△△センターなどといった独自の機関が置かれる場合があります。
法律によっては、こういった独自の機関が他の機関に命令する権限を持っていたり、逆に他の機関からの報告先や通報先となっている場合があります。機関が複数登場する場合複雑な場合は、図と矢印で、命令や報告を表現する等して整理するのが良いでしょう。また、これらの機関が関連する一定の手続きが定めれている場合にはフローチャート等も有効です。

なお、過労死等防止対策推進法の場合は、過労死等の防止のための対策に関する大綱を厚生労働大臣が作成する場合に意見を聴く先として過労死等防止対策推進協議会が登場します。協議会の委員の中に自殺者の遺族が含まれていることが特徴です。

第七条
3 厚生労働大臣は、大綱の案を作成しようとするときは、関係行政機関の長と協議するとともに、過労死等防止対策推進協議会の意見を聴くものとする。

第十二条 厚生労働省に、第七条第三項(同条第五項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理するため、過労死等防止対策推進協議会(次条において「協議会」という。)を置く。

第十三条 協議会は、委員二十人以内で組織する。
2 協議会の委員は、業務における過重な負荷により脳血管疾患若しくは心臓疾患にかかった者又は業務における強い心理的負荷による精神障害を有するに至った者及びこれらの者の家族又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因として死亡した者若しくは当該精神障害を原因とする自殺により死亡した者の遺族を代表する者、労働者を代表する者、使用者を代表する者並びに過労死等に関する専門的知識を有する者のうちから、厚生労働大臣が任命する。
3 協議会の委員は、非常勤とする。

法律に紐づく政令、省令、指針

多くの法律は、抽象的、一般的な書かれ方をしており、政令、省令、指針といった形で具体的な内容が定められる構成となっています。特に、厚生労働省が所管する産業・労働関連の多くの法律においては、具体的な内容が指針で定められていることが多く、第一回試験での障害者雇用促進法のように指針レベルでの理解を問う出題実績があるため確認が必要です。

なお、過労死等防止対策推進法に関しては、指針ではなく、同法に基づいて作成される「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が過労死等の防止のための具体的な取り組み内容を定めており、その内容が重要です。内容は長文ですが、大綱の概要だけでも目を通しておくと良いでしょう。また、法律にもとづいて作成される「●●大綱」は、何年かに一度見直しをするというのが定番です。見直しの頻度もチェックしておきましょう。

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/30gaiyou.pdf

以 上

 

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