自粛期間中の自殺者数減少の謎

はじめに

以前、新型コロナウイルス(COVID‐19)によるメンタルヘルスへの影響を検討しましたが、今回は自殺への影響を検討します。

警察庁発表による月別自殺者数のデータによれば、2020年2月から6月までの間に例年と比較して、自殺者数が減少していることが分かります。特に、緊急事態宣言が発出された4月以降の3か月間で例年に比べて顕著に自殺者数が減少していることが分かります。

https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html

日本においても、感染拡大期には、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため職場が閉鎖され収入が減少したり、顧客が急減したり、自由や活動が制約される等ストレスを感じる出来事が多かったことを考えると、この時期には自殺者が減少したのは意外な結果と言えます。

今回は、この新型コロナウイルスの感染拡大期に自殺者が減少した謎について考えてみたいと思います。

自然災害と自殺率の関係

これについては、日本における自然災害と自殺率との関連を都道府県単位のデータを用いて検討した澤田・上田・松林(2013)による研究が参考になります。

澤田・上田・松林(2013) 「自殺のない社会へ」 澤田・上田・松林 有斐閣
69~103頁

この研究では、日本での震災や豪雨等による自然災害による自殺率との関連が分析されています。

結果をまとめると、下記のようになります。

  • 自然災害の死者数は、1年後、2年後、5年後の自殺率とプラスの関連。
  • 自然災害の罹災者数と自殺率は1年後、2年後、5年後の自殺率とマイナスの関連。
  • 自然災害の死者数、罹災者数と自殺率との関連が見られるのは、男性の65歳未満のみ。
  • 阪神淡路大震災の影響が特に甚大であった兵庫県のデータを除いて分析しても、自然災害の罹災者数と1年後、2年後、5年後の自殺率にはマイナスの関連。

著者らは、自然災害後に被災地域で住民間の結びつきが強くなったことによって自殺の率が低下したのではないかという仮説を立てています。著者らは、地域の社会的なつながりの指標として献血数を用いて、この仮説を検討しています。分析によれば、自然災害の罹災者数が多い地域ほど献血数が多かったということが分かっています。

つまり、自然災害の罹災者数が多かった地域では地域の住民間の結びつきが向上したことで自殺率の上昇が防がれた可能性があります。

社会的隔離政策と孤独の関連

今回は新型コロナウイルスという感染症の影響なので、自殺者数に及ぼす影響が自然災害と同一かどうかは分かりません。これに関して、参考になるのが米国で行われた新型コロナウイルスの感染拡大防止のための社会的隔離政策が孤独感に及ぼす影響を検討した研究です。

Luchetti M, Lee JH, Aschwanden D, et al. The trajectory of loneliness in response to COVID-19 [published online ahead of print, 2020 Jun 22]. Am Psychol. 2020;10.1037/amp0000690. doi:10.1037/amp0000690

https://www.apa.org/pubs/journals/releases/amp-amp0000690.pdf

この研究では米国の調査会社のモニターを対象として2020年2月、3月、4月の3時点で追跡調査が行われ、対象者の孤独感の変化が検討されています。この研究では、当初想定されたような孤独感には変化がなく、追跡期間中に、他者からの支援が上昇したという結果が得られています。

終わりに

上記の自然災害と自殺率の関連に関する研究と、米国での新型コロナウイルスの感染拡大防止のための社会的隔離期の孤独感や他者からの支援の変化を合わせて考えると、日本においても自粛期間中に、友人知人親戚とのコミュニケーションが増え、つながりを意識することが増えた結果、自殺者数の減少につながったのかもしれません。

たとえば、普段より頻繁に友人と新型コロナウイルス関連の話題について電話やメール、SNSツールで会話した、あるいは離れて住む家族とZOOM等のオンラインツールで定額給付金やマスク配布等の共通の話題について連絡を取ったということがあったかもしれません。

自粛期間中に自殺者数が少なかったことの背景には、人々のつながりの増加以外の要因も考えらえる点には注意が必要です。たとえば、自粛期間中には学校が閉鎖され、多くの企業で在学勤務が実施されたことから、学校でのいじめや職場での人間関係のストレスの影響が少なかった影響も考えられます。

自粛期間中の人と人とのつながりがどう変化した、あるいは変化しなかったのか、さらにはメンタルヘルスや自殺への影響の研究、さらには今後の自殺者数の推移を追跡する研究が待たれます。

【登録者800人突破!】行動科学・データサイエンス、職場のメンタルヘルス、健康経営等に関する、人事担当者様、産業保健スタッフ・心理職の方に有用な情報を配信する株式会社ベターオプションズによる無料不定期メールマガジンはこちらから登録できます。


 

※登録後に「申し訳ありませんが、サーバーエラーが発生したようです。また、後ほどお試しください」というメッセージが表示されることがありますが、登録は完了しておりますのでご安心ください。

Follow me!